贈答用の美術品から自分用の身近なものへ


 「博多人形」は、博多近郊の土を使った素焼きの人形に彩色を施したもの。着物姿の艶っぽい女性像や勇ましく力強い武士像、コロコロと鳴る土鈴の干支人形におはじきなど、ケースに入れて床の間に飾られるような美術品から玩具まで、作品はバラエティに富んでいます。


①生酔い美人
いくつかのジャンルに分類される中でも、博多人形の代名詞といわれる【美人もの】。繊細に作り描き込まれた、しなやかで端麗な姿や表情は見る人を飽きさせない。
②香華
空を舞う天女。博多人形では神様や仏様など、天界をモチーフにした作品も多い。
③変化、仁木弾正
能や歌舞伎の1シーンを表現した【能もの】。2015年の歌舞伎・市川染五郎主演「伊達の十役」がモチーフ。


 遡れば1600年、筑前福岡藩の初代藩主・黒田長政が舞鶴城築城の際、瓦職人であった正木宗七が人形を作り献上したのが始まりで、1800年代には素焼きものを製造する陶工・中ノ子吉兵衛が庶民向けに人形を作り、これが現在の博多人形の原型であるとされています。その後、美術品的志向を強めた博多人形は、1922年に人形師・小島与一の作品がパリ万博で銀杯を受賞するなど、特にヨーロッパで高い評価を受けました。
 1976年には国の伝統的工芸品にも指定された博多人形。制作においては分業制をとらず、原型作りからすべての工程を手掛けるため、博多人形師はデッサンや彫塑、彩色など技術を広く深く身に付けなければなりません。人形師の高齢化や減少から技術の伝承が危ぶまれる中、2001年に博多人形商工業協同組合と福岡市が共同で博多人形師の育成塾(旧:体験講座)を開講。毎年15~20名が入塾し、人形師を目指して研鑽を積んでいます。
 今回お話を伺ったのは、29歳の博多人形師・田中勇気さん。高校卒業後、作品に惹かれて博多人形伝統工芸士・梶原正二さんの工房の門を叩き、10年の住み込み修行を経て、独立。若手の登竜門といわれる「博多人形与一賞展」で最高賞の「与一賞」を二度受賞した、期待の若手人形師です(掲載している作品「生酔い美人」は2012年の「与一賞」受賞作品)。


④酒呑童子
「はかた伝統工芸館」では2015年から毎年、若手作家有志による「博多人形妖怪展」を開催。妖怪や鬼などユニークな作品が出展されている。
⑤博多おはじき
博多人形師が集うグループ「白彫会」が手作業で製作しているおはじき。写真は「九州旅めぐり」をテーマにした、平成27年の筥崎宮「放生会はじき」。筥崎宮では「縁起はじき」が通年販売されている。


 「元々、自分一人で完結する手仕事や、腕一本で独り立ちしていく職人の世界への憧れがありました。人形は使い勝手を考える必要がなく、自由度が高い。作り手としてはそこに魅力を感じます」。
 田中さんが工房を構えるのは、博多の総鎮守・櫛田神社からほど近い雑居ビルの一室。ギャラリーや飲食店も入居する、ふらりと立ち寄ることのできる場所です。
 「最近は贈答用ではなく、自分のために購入する人が増えているように思います。それでもまだ“昔ならではの美術品”という印象が強かったり、地元でも知らない人は多い」と言う田中さん。工房では作品作りの傍ら、教室や絵付け体験も実施。イベントに出かけて出張ワークショップを開いたり、企業と共同で商品開発を行ったりと、博多人形を広める活動にも積極的に取り組んでいます。

博多人形ができるまで


博多人形では昔から、伝統的なものだけでなく、キャラクターやフィギュアも多く作られた。特定の力士を模った相撲をモチーフにしたものも人気だったとか。


人形を作る
1点ものの作品以外は石膏型で粘土を型抜きし、窯で素焼きする。造形し、石膏型を作るのも人形師の仕事。

色を付ける
顔料を使う時は、ニカワと混ぜて彩色。ニカワは湿度や気温で状態が変わる上に傷みやすく、扱いが難しい。

顔を描く
人形の肝となる顔。面相筆の先端を使い、細かく描き込んでいく。「目を描いた瞬間、人形が生き始めます」
田中勇気さん
博多人形作家。1988年佐賀市生まれ。
5歳で愛知県へ転居し、工業高校卒業後、博多人形伝統工芸士・梶原正二氏に師事。10年の修業を経て2016年に独立。


田中勇気 博多人形工房
福岡市博多区上川端9-35 リノベーションミュージアム冷泉荘 A-41 号室
TEL.080-1600-1042
営業時間/10:00 ~ 21:00
店休日/月・木曜
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素焼きの人形に絵付けをする体験も受付中。料金は1,000 ~ 2,000円(人形の大きさにより異なる)、所要1時間程度。事前予約がおすすめ。

はかた伝統工芸館
櫛田神社のそばにあり、博多人形や博多織など、福岡・博多に縁のある伝統工芸品が展示、紹介されている。
福岡市博多区上川端町6-1
TEL.092-409-5450
開館時間/10:00 ~ 18:00(入館は~ 17:30)
休館日/水曜(祝日の時は翌日) 、12月29〜 31日
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